スロウハイツの神様(辻村深月)

スロウハイツの神様  (2007年 講談社 辻村深月著)

 

 

物語のラストで、とにかく「やられた~!」

って思ってしまう1冊。

不思議と涙が止まりません。

 

優しさだけでこんなに泣けるのは

すごいと思いました。

 

 

スロウハイツ、というアパートに住む住人たちのお話。

 

現代版「ときわ荘」とまではいかないかもしれませんが、

スロウハイツに住む住人達は、

売れっ子の漫画家・脚本家を筆頭に、

映画監督の卵・漫画家の卵・写真を撮る者など、

さまざまな創作活動を行う人たち。

 

 

それぞれが何かと闘いながら日々生きている。

各人が個々のエピソードを持ち、

それが各章になって物語が進んでいきますが、

特に大きな事件が起きず、変化のないまま淡々と過ぎて、

また、そもそもがアニメ作家などの話なので、

若干わたしたちとは感覚が違うというか、

ああ、そういう感情や表現もあるんですね、とは思うけど、

そこまで共感をしなかったり。

加えて上・下巻と少し長いので、

もしかしたら、途中で退屈を感じてしまう人もいるかも。

 

ただ、この本は、最後まで読まないともったいない!

途中まで読んでいる時に、

「その本どう?」

と聞かれても

「いやあ、よく分かんないな」

って答えてしまいそうですが、

読破した後に、同じ質問をされたら、

絶対に「良かった!!」

って言うと思います。

 

全13章から構成されていますが、

後半の章で、中心核の人物の過去を語る章があり、

軽く、裏を突かれた気持ちになります。

お弁当箱の中でちょこちょこやってたのが、

その下に敷いたランチョマットごとひっくり返されたような。

 

で、そのまま最後まで読み進むと

最終章で、とにかく「やられたー!!」と。

ランチョマットひっくり返されたんじゃなかった、

その下のテーブルクロスごとの大どんでん返し!みたいな。

 

何て言うか、

「ああ、そういうことか」と、最終章を読みながら、

今まであったものが繋がっていって、

ある程度、先がよめちゃうんですけど、

先がよめるにも関わらず、分かっているのに涙が止まらない。

 

人が優しいだけでこんなに泣けるのはすごい。

 

別に、何かを求める訳でもなく、

ただ、本当にさりげなく、

さりげなすぎて、絶対相手に気付かれることはないけど、

気付かれないから、一生感謝されることはないんだけど、

それでも、相手はその優しさのおかげで、

少しだけ救われていく。

 

外側からそれを読んでいるわたしたちには分かるけれど、

実際の相手には、伝わることは一生ないからね。

切ないような、もどかしいような。

それが実際の人生なんでしょう。

 

優しさって、それを与えたことを相手に確認させると、

時に「これだけの恩をもらったから」と

相手を縛ったりする。

(もちろんそれはそれで、「感謝」という素敵なことだけど)

こういうのは、本当の意味で相手への優しさなんだなあ、

と思ってしまう。

 

 

 

前半で退屈したのを忘れちゃうくらい、

温かいラストでした。

 

あと、もう一度読み返すと、

そんな前半の中に大どんでん返しのヒントがたくさん。

 

物語にクセはありますが、

優しいお話でした。

 

 

もし、この本を実写化するなら、

チヨダ・コーキは絶対、若き日の加瀬亮しかいないと思います。

 

さらに言うと

狩野は森岡龍くん、

黒木は光石研

円谷は濱田額くんですね。

 

読んだ人には分かると思うキャスティング。

 

でも、ちょっと長いので、(さらにクセもあるので)

時間がいっぱいある人にどうぞ、というお話です。